Yaku_B
Mt.Yatsu(False)
にせ八ヶ岳(命名者はじぶん)
Yaku_A
けものくさい子。
Mt.Miya(FOG)
Mt.Nagata
もっこもこ
Hodou
あまり人の通らない道
買い物のレシートをノートにペタペタ貼付けるように、
いろいろ、こまごまとしたメモ。
初日、まずは羽田から鹿児島までのフライト。定刻通りの離陸。機体が右に傾き旋回する。
合わせて朝陽が機内を「一周」して照らす。
手元の高度計を確かめる。2287mとある。きちんと更正していないが、機内はおよそ780hPaになっている。
減圧しているように見えるが、実際には薄い鉄の壁を隔てて外はおよそ300hPa前後を飛行しているはずで、
500hPa近く「加圧」していることになる。操縦室に入って加圧計のメーターを見てみたい。
「犬が星見た」を取り出す。旅に出るときは必ずこの本を持ち歩き、少しずつ読むことにしている。
いつも天山山脈の描写を読み返す。何度読んでも、このわずか十数行は本当にまばゆい。
旅路の無二の親友、バイブルのような本。
鹿児島から屋久島へは双発機のボンバルディアQ400に搭乗する。これは正解。
だいたい3000m前後の低い高度を飛ぶから、そのあたりの雲と同じ高さになる。
これが良かった。飛行機と地面と雲とじぶんとが親密さを保てる高度。
大きい旅客機はあまり好きにはなれないけど、小さい飛行機ならば不便だがまあ楽しいこと。
高速回転するプロペラや揚力を自在とするための主翼の内部構造なんかもよく観察できる。可動式の付け根。おっきなプラモデル。
噴煙の桜島を上から眺める。島の線はくっきりきらきらとしている。海は百面体となって光を乱反射する。水面は風でしわしわに寄り縞模様になる。機織りの職人の見事な手さばきによる模様と、どちらがより精密?
ときおりサーマルによる雲の中へ突っ込む。ちょっとした乱気流で揺れる。これもお勉強。
わずか30分ばかりの絶景。息をかたっぱしから飲み込んでしまう。これじゃあ息がいくらあっても足りない。
機内放送にあわせて動作込みでシートベルトの説明をするスチュワーデスは、どこかよくできた人形劇のよう。操り糸はどこにありますか?と探してみる。
ウィルソン株。巨大な屋久杉を秀吉の時代に伐採し、それがいまでもこうして大きな切り株としてなお緑豊かに残っているらしい。
根っこは1つの洞穴のようになっていて、以前岩手で27人を飲み込んだイグルーよりも大きい。
中には透明なままの水が涌き出している。上を見ればこれもまた穴、樹の中から青空が見える不思議な光景。
見る角度によってはハート型に見えるのだという。けっ。そんな風になんか見るもんか。若い女の子たちはオオヨロコビ。
ウィルソン株を見ると、生命の根っこというのは下にだけではなく上にも伸びてゆくのだということがよくわかる。
この島では、本当に、小さな苗木が瞬きをする間にザザザと頭上を生い茂ってゆくのだ。すべての芽は限りなく古く、また新しい。
そして光が当たれば起き抜けのように大きな伸びをし、ついでにあくび1つでもしているんじゃないかしら。
ここから縄文杉までのあたりは修学旅行生の大群。道は狭いのでいちいちすれ違うだけでも一苦労。
歩く拡声器の群列のようにピーガー大きなおしゃべりが森にこだま。稼働電源は若さ。
皆ひと言、ひとことが必死に背伸びの塊を吐き出しているようで、うざったくもあり面白くもある。
2日目の夜、きれいに晴れたのでちょっと開けた場所で星空の観察。みんな小屋のウッドデッキに集まってわいわいしている。
月もなく天頂をまっすぐ天の川が横切り、3つの星が意味ありげな三角形を作りだす。
このトライアングルを見つけ出すのが、案外多くの人ができないらしい。名前はあるが、たぶん実際には意味は無い個々の星。トライアングル。
今日見たたくさんの古木たちにも名前がつけられていた。でもニンゲンたちがニンゲンの都合でつけた名前にすぎない。
偉大なスケールの事象は、意味を拒む。物事には事実はあるが、意味は無い。それがゆえに、解釈が生まれる。
解釈するのは、ときに楽しく、ときに哀しく、そして自由で無限大。
イビキをかきながら5分10分ほど寝てしまう。おやおや、しまった。
シカの鳴く声は絶え間なく、島中の山でどこでも聴くことができる。
あまりにも近い位置で何度も聴くものだから、ついにはヴァイオリンを弾きこするもののように錯覚してしまう。
ヤクシカはおしなべて本州のものよりも体躯は少し小さい。ときどき思春期の少年少女のように見える。
逃げるやつもいれば、堂々と草を食むやつもいる。写真のように大きい個体は色も黒くカッコイイ。
4日間も山を歩けば少しは「ケモノ」になれるかなとも思ったが、大間違い。
意外とニンゲンのまま。たぶん、同行者がいたから。のびのびと、屈託なく歩く。
ただし最後の下山だけは別。
地図のコースタイムがまったく当てにならないので(まったく、とんでもない!)、もののけの森をまさかのBダッシュ。
しかも野性味溢れる荒れ道。同行者には多大な迷惑をかけることに。
不細工になりながら、しかし集中力は極大に。飛び、跳ね、飲み干し、くぐり抜け、そして一気に下り降りる。2本足のケモノの証明。
なんとか予定に間に合ったので、硫黄のぷんぷんする温泉に入り、バスに飛び乗る。
帰りの便は、もう一度ボンバルディア。西日に照らされたミニチュアの田んぼに胸がいっぱい。
鹿児島空港のロビーで遅めの昼食。同行者と2人で黒豚角煮弁当とビール。あっという間にたいらげる。
鹿児島から東京へは、夜間飛行。太平洋側の光の海。とくに、関東平野。
夜の宝石を地上に縛りつけたニンゲン。これはこれで、大したものと呼ぶべきだろう。